完全微分形の微分方程式の解き方

完全微分方程式とは?

次の微分方程式を考えます。

\[ M(x,y) + N(x,y) \frac{dy}{dx} = 0 \]

\(M(x,y)\) と \(N(x,y)\) は、\(xy\) 平面上で単純閉曲線 (ジョルダン曲線) を境界とする領域で連続な関数であり、かつ、連続な一階偏微分をもつとします。

これと同じ意味の式として、次の形式で書き直します。

\[ M(x,y) dx + N(x,y) dy = 0 \tag{1} \]

この形式を微分形式 (differential form) といいます。

さてこのとき、もしある関数 \(F(x,y)\) があって、それが \(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M(x,y)\) 、 \(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N(x,y)\) であるとします。

すると、\(F(x,y)\) の全微分 \(dF\) は \((1)\) 式と併せて考えると、

\[ \begin{aligned} dF &= \frac{\partial F}{\partial x} dx + \frac{\partial F}{\partial y} dy\\ &= M(x,y) dx + N(x,y) dy\\ &= 0 \end{aligned} \]

となり、全微分は \(0\) となります。

従って、\((1)\) の一般解は \(F(x,y) = C\) (\(C\) は任意の定数) となります。

\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M(x,y)\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N(x,y)\) となる \(F(x,y)\) が存在するとき、 微分方程式 \(M dx + N dy = 0\) は、完全微分方程式 (exact differential equation) と呼ばれます。

完全微分方程式では、ある関数 \(F\) が存在して、その全微分が \(0\)、\(dF = 0\) なので、一般解は \(F(x,y) = C\) である、というわけです。

完全微分方程式を解く方法

ここまで、「もし、こんなに都合の良い関数 \(F(x,y)\) が存在したら、全微分が \(0\) であることから、\((1)\) の微分方程式が解けますね」という話をしました。

しかし、そもそも、そんなに都合の良い関数は存在するのでしょうか?

微分方程式 \(M(x,y) dx + N(x,y) dy = 0\) が与えられた時に、それが完全微分方程式であることはどうしたらわかるのでしょうか?

さらに、完全微分方程式であることがわかったところで、どうやって \(F(x,y)\) を具体的に求めたらよいでしょうか?

先に結論を書いてしまうと、完全微分方程式かどうか、ということについては次が知られています。

微分方程式 \(M(x,y) dx + N(x,y) dy = 0\) で完全微分方程式であることの必要十分条件は \(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) である。

さらにこのとき、一般解 \(F(x,y) = C\) を満たす \(F(x,y)\) は次の式で求められます。

\[ F(x,y) = \int M dx + \int \Big( N - \frac{\partial}{\partial y} \int M dx \Big) dy \]

完全微分形となる条件について

上で完全微分形となる必要十分条件は \(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) である、と書きましたが、 なぜそう言えるのか示しておきます。

まず、「\(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) が成り立つ」ことが、「\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) を満たす \(F(x,y)\) が存在する」ことの必要条件 (necessary condition) であることを示します。

「A ならば B である」ことが成り立つとき、B を A の必要条件といいます。「人(A) であれば生き物 (B) である」というとき、「生き物である」(B)ということは、「人である」(A) ことの必要条件 (necessary condition) です。生き物であるからといって、人であるとは限りませんが、人であるからには生き物であることが少なくとも必要である、という状況です。

今回の状況で言えば、「\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) を満たす \(F(x,y)\) が存在する」ならば、「\(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) が成り立つ」ことを示します。

\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) を満たす \(F(x,y)\) が存在するとします。

\(M\) と \(N\) は連続な偏微分を持つことから、偏微分の順序は入れ替えられるため、次が成り立ちます。

\[ \frac{\partial M}{\partial y} = \frac{\partial^2 F}{\partial y \partial x} = \frac{\partial^2 F}{\partial x \partial y} = \frac{\partial N}{\partial x} \]

次に「\(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) が成り立つ」ことが、「\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) を満たす \(F(x,y)\) が存在する」ことの十分条件 (sufficient condition) であることを示します。

「A ならば B である」ことが成り立つとき、A を B の十分条件 (sufficient condition) といいます。「人(A) であれば生き物 (B) である」というとき、「人である」(A)ということは、「生き物である」(B) ことの十分条件です。

今回の状況で言えば、「\(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) が成り立つ」ならば「\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) を満たす \(F(x,y)\) が存在する」ことを示します。

\(g(y)\) を \(y\) だけの関数とすると \(F = \int M dx + g(y)\) は \( \cfrac{\partial F}{\partial x} = M \) を満たします。

よって、\(g'(y)\) は次のようになります。

\[ \begin{aligned} N &= \cfrac{\partial F}{\partial y}\\ &= \frac{\partial}{\partial y} \Big[\int M dx + g(y)\Big]\\ &= \frac{\partial}{\partial y} \int M dx + g'(y) \end{aligned} \]

\[ \therefore \ \ g'(y) = N - \frac{\partial}{\partial y} \int M dx \tag{2} \]

もし、これが確かに \(y\) だけの関数であれば、上式を積分することで \(g(y)\) が求められる (すなわち存在する) ことがわかります。

ここでもし、上式の右辺を \(x\) で偏微分して \(0\) となれば、\(g'(y)\) は \(y\) だけの関数であることがわかります。

そこで \(x\) で偏微分すると、次のようになります。

\[ \begin{aligned} \frac{\partial}{\partial x} \Big(N - \frac{\partial}{\partial y} \int M dx\Big) &= \frac{\partial N}{\partial x} - \frac{\partial}{\partial x} \frac{\partial}{\partial y} \int M dx\\ &= \frac{\partial N}{\partial x} - \frac{\partial}{\partial y} \int \frac{\partial M}{\partial x} dx\\ &= \frac{\partial N}{\partial x} - \frac{\partial M}{\partial y}\\ &= 0 \end{aligned} \]

よって、\((2)\) を \(y\) で積分することによって、\(g(y)\) が次のように求められます。

\[ g(y) = \int \Big( N - \frac{\partial}{\partial y} \int M dx \Big) dy \]

従って、\(F(x,y)\) は次のように求められます。

\[ F(x,y) = \int M dx + \int \Big( N - \frac{\partial}{\partial y} \int M dx \Big) dy \tag{3} \]

以上から、\(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) は \((1)\) が完全微分形であることの必要十分条件であることがわかりました。

完全微分形の微分方程式の解き方

さて、ここまで見てきたように、

\[ M(x,y) dx + N(x,y) dy = 0 \]

という微分方程式において \(\cfrac{\partial M}{\partial y} = \cfrac{\partial N}{\partial x}\) が成り立てば完全微分形です。

完全微分形ということは、\(\cfrac{\partial F}{\partial x} = M\)、\(\cfrac{\partial F}{\partial y} = N\) となる関数 \(F(x,y)\) が存在するということであり、 与えられた微分方程式から、その全微分 \(dF = 0\) となります。よって、微分方程式の解は \(F(x,y) = C\) となります。

具体的には \(F(x,y)\) は上の \((3)\) で求まることがわかりました。

さて実際に問題を解く時に、\((3)\) を覚えているに越したことはありませんが、丸暗記する必要がない場合も多いです。

問題を解く例については、下のリンクから例題を見てください。

以上、ここでは完全微分形の微分方程式の解き方について説明しました。

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