行列式の定義
行列式の定義を理解するには、置換の基本的な知識が必要です。 行列式の定義を理解するための、最低限の置換の知識については「置換の定義と基本的な性質」にまとめてあります。
行列式の定義
\((1, \cdots, n)\) の \(n\) 個の数字の置換全体からなる集合を \(S_n\)、 \(\text{sgn}(\sigma)\) を置換の符号としたとき、\(n\)次の正方行列 \(A = [a_{ij}]\) に対して、次式で表される多項式の和を、行列 \(A\) の行列式 (determinant) という。
\[ \det(A) = \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn}(\sigma) a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)} \cdots a_{n\sigma(n)} \]
行列式は \(det(A)\) あるいは \(|A|\) などと書きます。
行列式の定義は、一見ヤヤコシイ形で表されています。
ここでは、具体的に書き下すことで、理解を深めましょう。
\(2\)次の正方行列の行列式
まずは、\(n=2\) の場合です。\(2\)次の正方行列 \(A = [a_{ij}]\) は次のように書けます。
\[ A = \begin{bmatrix} a_{11} & a_{12}\\ a_{21} & a_{22} \end{bmatrix} \]
次に、\(2\)個の数字 \((1,2)\) の置換全体からなる集合 \(S_2\) の元は、次の \(2\) 個。
\[ \sigma_1 = \begin{pmatrix} 1 & 2\\ 1 & 2 \end{pmatrix}, \ \ \sigma_2 = \begin{pmatrix} 1 & 2\\ 2 & 1 \end{pmatrix} \]
置換の符号は、\(\sigma_1\) は偶置換、\(\sigma_2\) は奇置換ですから、\(\text{sgn}(\sigma_1) = 1\)、\(\text{sgn}(\sigma_2) = -1\)。
したがって、行列式 \(\det(A)\) は次のように書き下せます。
\[ \begin{aligned} \det(A) &= \sum_{\sigma \in S_2} \text{sgn}(\sigma) a_{1\sigma(1)} a_{2\sigma(2)}\\ &= \text{sgn}(\sigma_1) a_{1\sigma_1(1)}a_{2\sigma_1(2)} + \text{sgn}(\sigma_2) a_{1\sigma_2(1)}a_{2\sigma_2(2)}\\ &= (1) a_{11} a_{22} + (-1) a_{12} a_{21}\\ &= a_{11} a_{22} - a_{12} a_{21} \end{aligned} \]
具体例として、
\[ A = \begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{bmatrix} \]
のとき、\(\det(A) = 1 \cdot 4 - 2 \cdot 3 = -6\) です。行列式は、行列ではなく一つの値になります。
\(3\)次の正方行列の行列式
\(3\)次の正方行列 \(A = [a_{ij}]\) は次のように書けます。
\[ A = \begin{bmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23}\\ a_{31} & a_{32} & a_{33} \end{bmatrix} \]
次に、\(3\)個の数字 \((1,2,3)\) の置換全体からなる集合 \(S_3\) の元は、 次の \(6\) 個。
\[ \begin{array}{cc} \sigma_1 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 1 & 2 & 3 \end{pmatrix},& \sigma_2 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 1 & 3 & 2 \end{pmatrix},\\ \sigma_3 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 2 & 1 & 3 \end{pmatrix},& \sigma_4 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 2 & 3 & 1 \end{pmatrix},\\ \sigma_5 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 3 & 1 & 2 \end{pmatrix},& \sigma_6 = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 3 & 2 & 1 \end{pmatrix} \end{array} \]
置換の符号は、\(\sigma_1\) は偶置換ですから、\(\text{sgn}(\sigma_1) = 1\)。
\(\sigma_2\)、\(\sigma_3\)、\(\sigma_6\) は互換で、奇置換ですから、\(-1\)。
\(\sigma_4\) は
\[ \sigma_{4a} = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 3 & 2 & 1 \end{pmatrix}, \ \sigma_{4b} = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3\\ 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \]
として、積 \(\sigma_{4b} \sigma_{4a} = \sigma_4\) と書けるから、偶置換。よって、\(\text{sgn}(\sigma_4) = 1\)。
同様に \(\sigma_5\) も2個の互換の積として書けるので、偶置換であるから \(\text{sgn}(\sigma_5) = 1\)。
したがって、行列式 \(\det(A)\) は次のように書き下せます。
\[ \begin{aligned} \det(A) &= \sum_{\sigma \in S_3} \text{sgn}(\sigma) a_{1\sigma(1)} a_{2\sigma(2)} a_{3\sigma(3)}\\ &= \text{sgn}(\sigma_1) a_{1\sigma_1(1)} a_{2\sigma_1(2)} a_{3\sigma_1(3)}\\ &\ \ + \text{sgn}(\sigma_2) a_{1\sigma_2(1)} a_{2\sigma_2(2)} a_{3\sigma_2(3)}\\ &\ \ + \text{sgn}(\sigma_3) a_{1\sigma_3(1)} a_{2\sigma_3(2)} a_{3\sigma_3(3)}\\ &\ \ + \text{sgn}(\sigma_4) a_{1\sigma_4(1)} a_{2\sigma_4(2)} a_{3\sigma_4(3)}\\ &\ \ + \text{sgn}(\sigma_5) a_{1\sigma_5(1)} a_{2\sigma_5(2)} a_{3\sigma_5(3)}\\ &\ \ + \text{sgn}(\sigma_6) a_{1\sigma_6(1)} a_{2\sigma_6(2)} a_{3\sigma_6(3)}\\ &= (+1) a_{11} a_{22} a_{33}\\ &\ \ + (-1) a_{11} a_{23} a_{32}\\ &\ \ + (-1) a_{12} a_{21} a_{33}\\ &\ \ + (+1) a_{12} a_{23} a_{31}\\ &\ \ + (+1) a_{13} a_{21} a_{32}\\ &\ \ + (-1) a_{13} a_{22} a_{31}\\ &= a_{11} a_{22} a_{33} + a_{12} a_{23} a_{31} + a_{13} a_{21} a_{32}\\ &\ \ - a_{11} a_{23} a_{32} - a_{12} a_{21} a_{33} - a_{13} a_{22} a_{31} \end{aligned} \]
このように、行列式の定義は一見、式が複雑に見えますが、特に置換に関する基本的な項目を理解していれば、 特に難しいところはないということが、わかるはずです。
以上、ここでは行列式の定義について説明しました。