余因子展開による行列式の計算
ここでは余因子展開を使って、行列式を計算する方法を説明します。
「余因子」で「展開」するというと何やらややこしそうですね。でも、よ~く計算手順をみてみると、案外単純ですので落ち着いてやってみましょう。
さて、まずは「余因子」とは何か、パッと思い出せない人は次の記事で先に復習してください。
さて、小行列式 \(M_{ij}\) 、余因子 \(C_{ij}\) は大丈夫ですか?
それでは余因子展開について説明します。
正方行列 \(A\) の行列式を余因子展開で求める
余因子展開というのは、\(n\) 次正方行列 \(A\) の行列式 \(\det (A)\) を求める方法です。
第 \(i\) 行に沿う余因子展開によって、\(\det (A)\) は次のように書けます。
ここで \(a_{ij}\) は行列 \(A\) の \(i\) 行\(j\) 列の要素です。
ついでに余因子のところを、小行列まで書き下すと次のようになります。
具体例として、\(A\) が 3 次の正方行列だったとしたら、
ですね。この場合、第\(3\)行に沿う余因子展開は次のように書けます。
で、これが \(A\) の行列式と等しいというのが、余因子展開です。
これは別に 3 行目である必要はなくて、1 行目でも 2 行目でも構いません。計算がしやすい行を選べばいいことになってます。
さらに、行ではなく、列に沿って展開しても良いことになってます。
第 \(j\) 列に沿う余因子展開は次の通りです。
2 次正方行列の行列式を余因子展開してみる
2 次の正方行列の行列式は「たすきがけ」で \(ad-bc\)です。
これを仰々しく、1 行目の余因子展開として求めたらどうなるか試してみましょう。
ここで、\(a_{11} = a\)、\(a_{12} = b\) です。\(C_{11}\) と \(C_{12}\) は、
以上から、確かに次のようになりました。
確かに、余因子展開の結果は「たすきがけ」で覚えていた式と同じになります。
余因子と他の行(または列)の成分の和
上の余因子展開では、ある行、または列に沿って、 \(a_{ij}\) と、その余因子 \(C_{ij}\) の積和をとると、元の行列の行列式に等しいことをみました。
それではさらに、 \(i\) 行の成分 \(a_{ik}\) と \(j\) 行に沿う余因子 \(C_{jk}\) の積和がどうなるかみてみましょう。
今、次の行列式を考えて、\(j\) 行に沿う余因子展開を考えます。
\[ \det(A) = \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{i1} & a_{i2} & \cdots & a_{in}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{j1} & a_{j2} & \cdots & a_{jn}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{vmatrix} = a_{j1} C_{j1} + a_{j2} C_{j2} + \cdots + a_{jn} C_{jn} \]
さて、もし、ここで \(i \ne j\) で \(a_{i1} = a_{j1}\)、\(a_{i2} = a_{j2}\)、\(\cdots\)、\(a_{in} = a_{jn}\) であるとすると、 行列式内の \(2\)行が等しいので \(\det(A) = 0\) です。
行列式内の \(2\) 行が等しい (または定数倍) のときに、行列式は \(0\) になります。その他の行列式の性質については「行列式の基本的な性質」をみてください。
したがって、次が成り立ちます。
\[ a_{i1} C_{j1} + a_{i2} C_{j2} + \cdots + a_{in} C_{jn} = 0 \ \ \ \ (i \ne j) \]
列の場合も同様です。
\(j\) 列に沿う余因子展開では
\[ \det(A) = \begin{vmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1i} & \cdots & a_{1j} & \cdots & a_{1n}\\ a_{21} & \cdots & a_{2i} & \cdots & a_{2j} & \cdots & a_{2n}\\ \vdots & & \vdots & & \vdots & & \vdots\\ a_{n1} & \cdots & a_{ni} & \cdots & a_{nj} & \cdots & a_{nn}\\ \end{vmatrix} = a_{1j} C_{1j} + a_{2j} C_{2j} + \cdots + a_{nj} C_{nj} \]
であり、ここで \(i \ne j\) で \(a_{1i} = a_{1j}\)、\(a_{2i} = a_{2j}\)、\(\cdots\)、\(a_{ni} = a_{nj}\) であるとすると、 行列式内の \(2\)列が等しいことから \(\det(A) = 0\) ですから
\[ a_{1i} C_{1j} + a_{2i} C_{2j} + \cdots + a_{ni} C_{nj} = 0 \ \ \ \ (i \ne j) \]
が成り立ちます。