余因子展開による行列式の計算

ここでは余因子展開を使って、行列式を計算する方法を説明します。

「余因子」で「展開」するというと何やらややこしそうですね。でも、よ~く計算手順をみてみると、案外単純ですので落ち着いてやってみましょう。

さて、まずは「余因子」とは何か、パッと思い出せない人は次の記事で先に復習してください。

小行列式と余因子

さて、小行列式 \(M_{ij}\) 、余因子 \(C_{ij}\) は大丈夫ですか?

それでは余因子展開について説明します。

正方行列 \(A\) の行列式を余因子展開で求める

余因子展開というのは、\(n\) 次正方行列 \(A\) の行列式 \(\det (A)\) を求める方法です。

第 \(i\) 行に沿う余因子展開によって、\(\det (A)\) は次のように書けます。

\[ \begin{aligned} \det (A) &= \sum_{j=1}^{n} a_{ij} C_{ij} \end{aligned} \]

ここで \(a_{ij}\) は行列 \(A\) の \(i\) 行\(j\) 列の要素です。

ついでに余因子のところを、小行列まで書き下すと次のようになります。

\[ \begin{aligned} \det (A) &= \sum_{j=1}^{n} a_{ij} C_{ij} \\ &= \sum_{j=1}^{n} a_{ij} (-1)^{i+j} M_{ij} \end{aligned} \]

具体例として、\(A\) が 3 次の正方行列だったとしたら、

\[ A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} \\ \end{pmatrix} \]

ですね。この場合、第\(3\)行に沿う余因子展開は次のように書けます。

\[ a_{31} C_{31} + a_{32} C_{32} + a_{33} C_{33} \]

で、これが \(A\) の行列式と等しいというのが、余因子展開です。

\[ \det(A) = a_{31} C_{31} + a_{32} C_{32} + a_{33} C_{33} \]

これは別に 3 行目である必要はなくて、1 行目でも 2 行目でも構いません。計算がしやすい行を選べばいいことになってます。

さらに、行ではなく、列に沿って展開しても良いことになってます。

第 \(j\) 列に沿う余因子展開は次の通りです。

\[ \begin{aligned} \det (A) &= \sum_{i=1}^{n} a_{ij} C_{ij} \end{aligned} \]

2 次正方行列の行列式を余因子展開してみる

2 次の正方行列の行列式は「たすきがけ」で \(ad-bc\)です。

\[ \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} = ad - bc \]

これを仰々しく、1 行目の余因子展開として求めたらどうなるか試してみましょう。

\[ \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} = a_{11} C_{11} + a_{12} C_{12} \]

ここで、\(a_{11} = a\)、\(a_{12} = b\) です。\(C_{11}\) と \(C_{12}\) は、

\[ \begin{aligned} C_{11} &= (-1)^{1+1} M_{11} \\ &= (-1)^{2} \det[d] \\ &=d \end{aligned} \]
\[ \begin{aligned} C_{12} &= (-1)^{1+2} M_{12} \\ &= (-1)^{3} \det[c] \\ &=-c \end{aligned} \]

以上から、確かに次のようになりました。

\[ \begin{aligned} \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} &= a_{11} C_{11} + a_{12} C_{12} \\ &= ad + b(-c) \\ &= ad-bc \end{aligned} \]

確かに、余因子展開の結果は「たすきがけ」で覚えていた式と同じになります。

余因子と他の行(または列)の成分の和

上の余因子展開では、ある行、または列に沿って、 \(a_{ij}\) と、その余因子 \(C_{ij}\) の積和をとると、元の行列の行列式に等しいことをみました。

それではさらに、 \(i\) 行の成分 \(a_{ik}\) と \(j\) 行に沿う余因子 \(C_{jk}\) の積和がどうなるかみてみましょう。

今、次の行列式を考えて、\(j\) 行に沿う余因子展開を考えます。

\[ \det(A) = \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{i1} & a_{i2} & \cdots & a_{in}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{j1} & a_{j2} & \cdots & a_{jn}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{vmatrix} = a_{j1} C_{j1} + a_{j2} C_{j2} + \cdots + a_{jn} C_{jn} \]

さて、もし、ここで \(i \ne j\) で \(a_{i1} = a_{j1}\)、\(a_{i2} = a_{j2}\)、\(\cdots\)、\(a_{in} = a_{jn}\) であるとすると、 行列式内の \(2\)行が等しいので \(\det(A) = 0\) です。

行列式内の \(2\) 行が等しい (または定数倍) のときに、行列式は \(0\) になります。その他の行列式の性質については「行列式の基本的な性質」をみてください。

したがって、次が成り立ちます。

\[ a_{i1} C_{j1} + a_{i2} C_{j2} + \cdots + a_{in} C_{jn} = 0 \ \ \ \ (i \ne j) \]

列の場合も同様です。

\(j\) 列に沿う余因子展開では

\[ \det(A) = \begin{vmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1i} & \cdots & a_{1j} & \cdots & a_{1n}\\ a_{21} & \cdots & a_{2i} & \cdots & a_{2j} & \cdots & a_{2n}\\ \vdots & & \vdots & & \vdots & & \vdots\\ a_{n1} & \cdots & a_{ni} & \cdots & a_{nj} & \cdots & a_{nn}\\ \end{vmatrix} = a_{1j} C_{1j} + a_{2j} C_{2j} + \cdots + a_{nj} C_{nj} \]

であり、ここで \(i \ne j\) で \(a_{1i} = a_{1j}\)、\(a_{2i} = a_{2j}\)、\(\cdots\)、\(a_{ni} = a_{nj}\) であるとすると、 行列式内の \(2\)列が等しいことから \(\det(A) = 0\) ですから

\[ a_{1i} C_{1j} + a_{2i} C_{2j} + \cdots + a_{ni} C_{nj} = 0 \ \ \ \ (i \ne j) \]

が成り立ちます。

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