ベクトルの発散 div
ベクトルの発散とは?
ベクトル場 \(\overrightarrow{F} = F_1(x,y,z)\overrightarrow{i} + F_2(x,y,z)\overrightarrow{j} + F_3(x,y,z)\overrightarrow{k} \) があるとき、 次の値を発散 (divergence) といいます。
\(\nabla\) を用いて書くと、形式的にベクトル \(\Big\langle\displaystyle\frac{\partial}{\partial x}, \displaystyle\frac{\partial}{\partial y}, \displaystyle\frac{\partial}{\partial z}\Big\rangle\) と \(\langle F_1, F_2, F_3\rangle \) との内積を計算するように、成分毎に演算子を作用させることで、次のようにかけます。
\(\langle a, b, c\rangle\) という書き方は、ベクトルの成分表示です。\(a\overrightarrow{i}+b\overrightarrow{j}+c\overrightarrow{k}\) と同じです。
\(\overrightarrow{r} = x \overrightarrow{i} + y \overrightarrow{j} + z \overrightarrow{k}\) のとき \(\nabla \cdot \overrightarrow{r}\) を求めよ。
上の定義に当てはめると \(F_1 = x, F_2 = y, F_3 = z\) だから、それぞれの偏微分は次の通り。
従って \(\overrightarrow{r}\) の発散 \(\nabla \cdot \overrightarrow{r}\) は次のように求められます。
発散の物理的な意味は「単位時間、単位体積からの流出量」
それでは上で定義した発散に、どんな意味があるのか考えてみましょう。
そのために、水が溜められているプールの中を考えます。プールの中には、水が注がれる場所、流れ出る排水口などいろいろあって、 場所によって水の速度が違います。
そこで、プールの中に \(xyz\) 直交座標系を考えて、場所による速度 \(\overrightarrow{v}\) を次のように書きましょう。
\[ \overrightarrow{v} (x,y,z) = v_1(x,y,z) \overrightarrow{i} + v_2(x,y,z) \overrightarrow{j} + v_3(x,y,z) \overrightarrow{k} \]
ここで \(\overrightarrow{i}\)、\(\overrightarrow{j}\)、\(\overrightarrow{k}\) はそれぞれ、\(x, y, z\) 軸の基本ベクトルです。
さて、水の中に次のように直方体の領域を考えます。\(x, y, z\) 軸方向の長さはそれぞれ、\(\Delta x, \Delta y, \Delta z\) とします。
そこで、この領域から単位時間に流出する水の量を計算してみましょう。
そのためにまず、\(x\) 軸に垂直な面に着目します。
まず、この面の面積 \(S\) は、縦 \(\Delta z\)、横 \(\Delta y\) ですから、\(S=\Delta y\Delta z\) です。これが、\(x\) 座標の前後 \(-\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\) と \(\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\) のところにあります。
\(x\) 座標が \(x+\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\) のところにある側の面では、\(x\) 方向の速さは \(v_1(x+\displaystyle\frac{\Delta x}{2}, y, z)\) ですから、
\[ \text{\small{流出量}} = v_1(x+\frac{\Delta x}{2}, y, z) \Delta y \Delta z \]
また \(x\) 座標が \(x-\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\) のところにある側の面では、\(x\) 方向の速さは \(v_1(x-\displaystyle\frac{\Delta x}{2}, y, z)\) ですから、
\[ \text{\small{流入量}} = v_1(x-\frac{\Delta x}{2}, y, z) \Delta y \Delta z \]
従って、\(x\) 軸方向の流出量は差し引きで次のようにかけます。
\[ \begin{aligned} \text{\small{x 方向の流出量}} &= v_1\Big(x+\frac{\Delta x}{2}, y, z\Big) \Delta y \Delta z - v_1\Big(x-\frac{\Delta x}{2}, y, z\Big) \Delta y \Delta z\\ &= \Big\{v_1\Big(x+\frac{\Delta x}{2}, y, z\Big) - v_1\Big(x-\frac{\Delta x}{2}, y, z\Big) \Big\} \Delta y \Delta z\\ &= \Big[\Big\{v_1 + \frac{\partial v_1}{\partial x}\frac{\Delta x}{2}\Big\} - \Big\{v_1 + \frac{\partial v_1}{\partial x}\Big(-\frac{\Delta x}{2}\Big)\Big\}\Big] \Delta y \Delta z\\ &= \frac{\partial v_1}{\partial x} \Delta x \Delta y \Delta z \end{aligned} \]
\(y\) 軸方向、\(z\) 軸方向も同様の考え方で、
\[ \begin{aligned} \text{\small{y 方向の流出量}} &= \frac{\partial v_2}{\partial y} \Delta x \Delta y \Delta z\\ \text{\small{z 方向の流出量}} &= \frac{\partial v_3}{\partial z} \Delta x \Delta y \Delta z \end{aligned} \]
よって、上記の微小領域からの単位時間の流出量はこれらを足し合わせて、次のようにかけます。
\[ \text{\small{単位時間の流出量}} = \Big(\frac{\partial v_1}{\partial x} + \frac{\partial v_2}{\partial y} + \frac{\partial v_3}{\partial z} \Big) \Delta x \Delta y \Delta z \]
両辺を、領域の体積 \(\Delta x \Delta y \Delta z\) で割ることによって、次がわかります。
\[ \text{\small{単位時間単位体積からの流出量}} = \frac{\partial v_1}{\partial x} + \frac{\partial v_2}{\partial y} + \frac{\partial v_3}{\partial z} \]
これが、ベクトルの発散 \(\nabla \cdot \overrightarrow{v}\) の意味です。