行基本変形で逆行列を求める方法
基本行列から逆行列を求める仕組み
ある正方行列 \(A\) に、行基本変形を行い、単位行列に変形することを考えます。
具体例として、
\[ A = \begin{bmatrix} 0 & 1\\ 1 & -3 \end{bmatrix} \]
を基本変形して、単位行列にしてみましょう。
まず、「\(1\) 行目と \(2\) 行目を入れ替える」という行基本変形で、次のようになります。
\[ A = \begin{bmatrix} 0 & 1\\ 1 & -3 \end{bmatrix} \xrightarrow[\text{入れ替える}]{\text{1行目と2行目を}} \begin{bmatrix} 1 & -3\\ 0 & 1 \end{bmatrix}\tag{1} \]
\(2\)次の正方行列 \(A\) に「\(1\) 行目と \(2\) 行目を入れ替える」という行基本変形を行う、ということは、 \(P_2(1,2)\) という基本行列を \(A\) の左からかける、ということと同じことです。
\[ P_2(1,2) = \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix} \]
基本行列を表す記号に関しては「単位行列と基本行列」をみてください。
ひとつ目に適用する基本行列ということで、\(E_1 = P_2(1,2)\) とします。すると、\((1)\) は
\[ E_1 A = \begin{bmatrix} 1 & -3\\ 0 & 1 \end{bmatrix} \tag{1'} \]
と書けます。
さらに、「\(1\) 行目に \(2\) 行目の \(3\) 倍を加える」という基本変形で、次のようになります。
\[ E_1 A = \begin{bmatrix} 1 & -3\\ 0 & 1 \end{bmatrix} \xrightarrow[{\text{3倍を加える}}]{\text{1行目に2行目の}} \begin{bmatrix} 1 & 0\\ 0 & 1 \end{bmatrix} = I \tag{2} \]
\(I\) は単位行列 (Identity matrix) です。
\(2\)次の正方行列 \(A\) に「\(1\) 行目に \(2\) 行目の \(3\) 倍を加える」という行基本変形を行う、ということは、 \(R_2(1,2;3)\) という基本行列を \(A\) の左からかける、ということと同じことです。
\[ R_2(1,2;3) = \begin{bmatrix} 1 & 3 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \]
ふたつ目に適用する基本行列ということで、\(E_2 = R_2(1,2;3)\) とします。すると、\((2)\)は
\[ E_2 E_1 A = I \tag{2'} \]
と書き直せます。
式 \((2')\) から、\(E_2 E_1\) と \(A\) の積が \(I\) ですから、\(E_2 E_1\) は \(A\) の逆行列です。
\[ \begin{aligned} \underbrace{(E_2 E_1)}_{=A^{-1}} A &= I\\ \therefore \ A^{-1} &= E_2 E_1 \end{aligned} \]
このように、正方行列 \(A\) に一連の行基本変形 \(E_m \cdots E_1\) を行って、単位行列を得た時、基本行列の積 \(E_m \cdots E_1\) は \(A\) の逆行列となります。
行基本変形で逆行列を求める方法
以上の理屈を使って、逆行列を求めるために、次のように上記の行列 \(A\) と \(I\) を並べた行列を考えます。
\[ [ \ A \ | \ I \ ] = \begin{bmatrix} \begin{array}{cc | cc} 0 & 1 & 1 & 0\\ 1 & -3 & 0 & 1 \end{array} \end{bmatrix} \]
縦棒 \(|\) はみやすくなるように、単に区切り線の意味で付け加えているだけです。
この行列に対して、上記の行基本変形 \(E_2 E_1\) を適用すると、
\[ \begin{aligned} [E_2 E_1][A \ | \ I] &= \begin{bmatrix} E_2 E_1 A \ | \ E_2 E_1 \end{bmatrix}\\ &= [ \ I \ | \ A^{-1} \ ] \end{aligned} \]
という風に行列 \(A\) の部分が、\(I\) になるように行基本変形すれば、 \(A\) の逆行列 \(A^{-1}\) が求められることになります。
具体的には
\[ \begin{aligned} [ \ A \ | \ I \ ] &= \begin{bmatrix} \begin{array}{cc | cc} 0 & 1 & 1 & 0\\ 1 & -3 & 0 & 1 \end{array} \end{bmatrix}\\[1.2em] &\xrightarrow[\text{入れ替える}]{\text{1行目と2行目を}} \begin{bmatrix} \begin{array}{cc | cc} 1 & -3 & 0 & 1\\ 0 & 1 & 1 & 0 \end{array} \end{bmatrix}\\[1.2em] &\xrightarrow[\text{3倍を加える}]{\text{1行目に2行目の}} \begin{bmatrix} \begin{array}{cc | cc} 1 & 0 & 3 & 1\\ 0 & 1 & 1 & 0 \end{array} \end{bmatrix} = [ \ I \ | \ A^{-1} \ ] \\[1.2em] \end{aligned} \]
となります。
まとめると、行列 \(A\) の逆行列を求めるには、\([ \ A \ | \ I \ ]\) という行列を作り、 この行列の \(A\) だった部分が \(I\) になるように、行基本変形をすれば、 元の \(I\) のところに \(A^{-1}\) が出現することになります。